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 相手がHIV陽性とわかってから、セックスについて悩んだり、セックスをしなくなったり、できなくなったりする人がいます。また、HIV陽性者もセックスについて悩んでいることが少なくありません。
 以前のようにセックスを楽しむ気持ちになるまで、無理にセックスをする必要はありません。しかし、知識の整理とちょっとした工夫や話し合いで、必要以上に神経質にならずに、必要な感染予防をしながら、安心してセックスができる方法を見つけている人もたくさんいます。
 パートナーの感染がわかってから、お互いに「安全」を意識するようになりましたが、セックスをする、しないの葛藤や悩みを持ったことはありません。
 心配や不安という点で言えば、私は彼と付き合い始めた頃のほうが心配でしたし、悩んだこともありました。彼は、コンドームを使うのが少し苦手だったのです。それは、付き合っているうちにわかってきました。
 私はやはり、私の気持ちや身体を大切にしてくれる人とお付き合いしたいし、彼との関係を大事にしたかったので、コンドームや気になることはその都度勇気を出して彼に話し、尋ね、いろいろなことをお願いしてきました(HIV検査受検もその一つ)。私たちはお互いを尊重し、歩み寄り、関係を築いてきたように思います。
 彼の検査結果はショックでしたが、二人でHIVについて学び、きちんと話し合い、彼もあらゆる面で誠実に対応してくれたので、セックスには影響はありませんでした。今も、二人で何でもたくさん話をしますし、快適なコンドームを探すなど工夫して、豊かな時間を過ごしています。
 HIVが多く含まれる精液・膣分泌液・血液が、粘膜や傷口を通して体の中に入り込むと、感染の可能性が生じます。コンドームを使わないアナルセックス(肛門性交)や膣性交はそれにあたります。コンドームを使わないオーラルセックス(フェラチオやクンニリングス)は、される側での感染はほとんどありません。する側は、精液や膣分泌液が口や喉などの粘膜から入り込むことがあり得るため感染の可能性はあり、口内での射精は感染の可能性を高めます。
 アナルセックスや膣性交をする場合、コンドームは安心してセックスをするための重要で便利なアイテムです。また、先走り液にも少量ですがHIVが含まれたり、精液が混ざったりすることがあるため、フェラチオでもコンドームを使うとより安心です。
 また、どのようなセックスが好きで、どのような行為に不安を持っているかといったことを、お互いに話し合うことができれば、より安心感が増すでしょう。自分たちなりのガイドラインを作ってみるのも良いでしょう。
 免疫力が低下しているHIV陽性者が、梅毒やウイルス性肝炎などのSTD(性感染症)にかかった場合、治りにくかったり重い症状になったりすることがあります。また、すでにHIVに感染していても、異なるタイプのHIVや薬剤耐性(薬が効かない/効きにくい)のHIVに再度感染することがあり、それによって免疫力が下がり重い症状になることもあります。
 セーファーセックスは、HIV陽性者からHIVの感染を予防するためだけではなく、HIV陽性者へ他のSTDの感染やHIVの再感染を予防するためのものでもあります。また、HIV陽性者同士でセックスをする場合にも、こういったこと理解しておくことが大切です。
 僕らのセックスで放たれた精液は、僕がイッたときも、彼がイッたときも、いつも彼が片づけている。最初は、彼のほうがタチだし、そんなものかな、と思っていた。彼は射精したあとのペニスを触られるのが苦手な人だ、というのも確かなことだ。でももしかしたら彼には、HIVが潜んでいる自分の精液を、僕に触らせるのを少しでも防ぎたい… そんな気持ちがあるんじゃないかと、最近考えるようになった。
 そんな風に気をつかって、僕のことを大切にしてくれているのは、とても嬉しい。愛されている、と自惚れたりもする。けれど、こんな風に僕のことを大事にして、セーファーなセックスを一緒につくれる彼にも、彼自身のことを大切にできないときがあったのではないか。僕と出会う前の彼は、キケンな行為でしか埋められない悩みや寂しさを、抱えていたのではないか。そんな風に感じて、カワイソウ、なんて勝手に思ってしまうことも、あったりする。
 彼本人にそのことを確かめたことは、まだ、ない。パートナーだからこそ、聞きづらいこと、言いづらいこともあると思う。でも、彼の感染を知る共通の友人に、こんな気持ちをポロッと漏らしたときには、
「そういうところ、気を遣う人だよね」と、サラリと同意してくれて、自分のなかだけで抱えていた気持ちが、少し楽になった。この手記をきっかけに、彼とも話をしてみようかな。
 HIV陽性者が服薬治療を行っていて、ウイルス量が検査で測定できる最少値以下に抑えられている場合には、まだ治療していなくてウイルス量の高い人や、自分の感染を知らずにウイルス量を把握できない人にくらべて、条件によっても異なりますが、感染の可能性は非常に低いと言えます。
 感染の可能性は、あり/なし の2つに分かれているわけではなく、感染しやすい、感染しにくい、感染しないといったようにさまざまな状況に応じて段階的にとらえるのが現実的な考え方と言えます。